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半導体設計人材が不足する理由、日本復権に必要な対策とは何か

半導体設計人材不足を示す空席の並ぶオフィスのイメージ

30秒でわかるこの記事

  • LSTCとTenstorrentが半導体設計人材を5年で200人育成する国策プロジェクトを開始
  • 日本が設計人材不足に陥った背景には1980年代からの経営判断の積み重ねがある
  • 設計を握る企業ほど利益率が高く、NVIDIAの粗利率は約74.9%に達する

日本発の最先端半導体ファウンドリ「Rapidus」の稼働に向けた動きが加速する一方で、その最先端工場で作るべき「設計図」を描ける人材が国内に決定的に足りていない——そんな構造的な課題が、ここへきてはっきりと表面化してきた。国と米国スタートアップが手を組んだ人材育成プログラムの中身を追いながら、私はなぜここまで人材が枯渇したのか、その背景を掘り下げてみた。

目次

国策プロジェクトの中身、LSTCとTenstorrentの提携

国際協力を象徴する日本と米国の技術連携イメージ

技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)は、NEDOの委託を受け、米Tenstorrentと共同で「最先端デジタルSoC設計人材育成」事業を開始した。5年間でシングルナノ世代の先端半導体を設計できるアーキテクトを200名育成するという、かなり野心的な国策プロジェクトだ。

研修プログラムの三段階を確認してみた

私はこのプログラムの階層構造が気になって、公開資料を確認してみた。初級コースではSynopsysやCadenceといった世界的なEDA(電子設計自動化)ツールの使い方を学び、中級コースでは東京大学のAIチップ設計拠点を使って28ナノメートル以細のロジック半導体設計を実践する。そして上級コースでは、米国のTenstorrent本社へ半年から1年半ほど赴任し、実際のオープンソースプロジェクトに参加するOJTが組まれている。

  • 初級:EDAツールの使い方を習得
  • 中級:東大の拠点で28nm以細のロジック設計を実践
  • 上級:Tenstorrent本社で半年〜1年半のOJT

私はこの3段階を見て、「座学だけでは終わらせない」という設計思想を強く感じた。Tenstorrentという提携先を選んだ理由も納得がいく。同社のCEOであるジム・ケラー氏は、AppleのAシリーズチップやAMDのZenアーキテクチャ、Teslaの自動運転チップなど、数々の歴史的アーキテクチャを成功させてきた人物で、RISC-Vというオープンソースの命令セットアーキテクチャを軸に事業を展開している。TenstorrentはRapidusにエッジAI向け2ナノ半導体IPの製造を委託する関係にあり、両者の利害は完全に一致している。

RISC-VとArmの覇権争いという視点

私が調べていて興味深かったのは、Tenstorrentが採用するRISC-Vという規格の立ち位置だ。スマートフォン市場を制覇した英Arm(ソフトバンク傘下)に対し、RISC-Vはライセンス料が無料で、特定のAI演算に特化したカスタム命令を自由に追加できるという特徴を持つ。この自由度の高さから、エッジAIやIoTといった新しい領域でArmのシェアを侵食しつつあるという。日本の自動車・ロボティクス産業のようにハードウェアを精緻に制御したい分野との相性が良いと、ジム・ケラー氏自身も高く評価しているようだ。

AIが設計を代行する「Raads」という挑戦

もう一つ私が注目したのは、Rapidusが2026年以降に提供を予定している「Raads」というAI設計支援ツールだ。AIが自律的に回路(RTL)を生成し、消費電力や面積を最適化するというもので、これによって設計期間を50%短縮する構想が打ち出されている。人材不足を人力だけで埋めるのではなく、AIエージェントの力を借りて補完しようとする発想は、慢性的な人手不足に悩む日本にとって現実的な選択肢だと感じた。

SoftBank/Armが描く巨大インフラ構想

半導体人材育成の動きと並行して、資金面でも桁違いの投資が進んでいる。ソフトバンクグループは英Armを中核に据え、OpenAI等とともに米国内で4年間に5,000億ドルを投じる「Stargate」プロジェクトを主導している。モデル層(OpenAI)、インフラ層、半導体設計層を垂直統合するというこの構想は、AIと半導体を切り離せない一体のエコシステムとして捉える発想の表れだと私は理解した。

なぜ日本だけ設計人材が枯渇したのか、80年代からの構造

1980年代の日本の工場を思わせるレトロなイメージ

人材不足の背景には、単なる少子化以上の、日本企業の経営判断の積み重ねがある。

半導体産業の歴史を数字で追ってみた

1980年代後半、NEC・東芝・日立製作所・富士通・三菱電機のいわゆる「日の丸半導体ビッグ5」は、メインフレーム向けのDRAM市場で世界シェアの過半数を握っていた。当時は設計から製造までを自社で行う垂直統合型(IDM)モデルが主流で、すり合わせの製造技術こそが競争力の源泉だった。

しかし1990年代、米IntelやAMDがCPU(ロジック半導体)の設計で覇権を握り、製造は台湾のファウンドリに委託する水平分業モデルが台頭する。日本企業はこの転換に遅れ、2000年代には日立と三菱電機とNECのエレクトロニクス部門が統合されてルネサスエレクトロニクスに、富士通とパナソニックのシステムLSI事業が統合されてソシオネクストになった。この再編の過程で、多くの優秀な設計エンジニアが業界を去った。

この歴史を踏まえたうえで、経済産業省と電子情報技術産業協会(JEITA)が試算した数字を確認すると、今後10年で国内の主要半導体関連企業だけでも4万人規模の欠員が見込まれるという。工場という「箱」を作る計画は着々と進んでいるのに、その中で図面を描く人材だけが取り残されている——私はこの数字にそんな不均衡を読み取った。

自動車メーカーも設計の内製化へ動き出した

歴史的な失敗を繰り返さないためか、国内の自動車業界では設計の内製化に舵を切る動きが出てきている。トヨタとデンソーは車載半導体の研究・先行開発を担う「MIRISE Technologies」を共同で設立し、パワーエレクトロニクス・センシング・SoCの3領域で技術をブラックボックス化させない「技術の手の内化」を進めている。自動車が「ソフトウェアで定義されるクルマ(SDV)」へ進化する中、外部調達に依存したままでは適正な品質やコストを評価する能力そのものを失ってしまう、という強い危機感が背景にあるようだ。

この人材枯渇の裏側には、AIインフラをめぐる世界的な投資競争の激化もある。半導体をめぐる勢力図の変化が気になる方は、こちらの記事も背景として参考になるはずだ。

FAANGからMANGOSへ——2026年のAI覇権争いの構造と、日本の投資家が知っておきたいこと

設計を握る企業ほど儲かる、世界の利益率を試算してみた

グラフや数字が並ぶビジネス資料のイメージ

半導体業界を見ていて印象的なのは、「製造する側」より「設計する側」の方が圧倒的に儲かる、という構図だ。

粗利率の差を実際に計算してみた

NVIDIAの粗利率は約74.9%(2026年Q1時点)、一方でファウンドリであるTSMCの粗利率は約66.2%と発表されている。この差がどれくらいのインパクトを持つのか、私は仮に売上1兆円の会社で試算してみた。

売上1兆円×粗利率74.9%=7,490億円(設計側のケース)

売上1兆円×粗利率66.2%=6,620億円(製造側のケース)

同じ売上規模でも、粗利の差は870億円にのぼる。製造は工場や設備投資に莫大な固定費がかかる一方、設計側は人間の知恵(アーキテクチャとソフトウェア)が原価の大部分を占めるため、一度優れた設計を完成させれば高い利益率を維持しやすい。

日本にも設計で存在感を示す企業がある

海外企業の話ばかりが目立つが、日本にも独自の設計力を持つ企業は存在する。ソニーはCMOSイメージセンサーにAI処理機能を組み込んだエッジAIチップの設計を強化しており、Preferred Networksは深層学習に特化した超低消費電力の独自AIアクセラレータ「MN-Core」を展開している。Kioxiaも3D NANDフラッシュメモリの高速データ転送を制御するコントローラICの設計人材育成に注力しているという。ニッチな領域での技術的優位性を、いかに次の世代に継承できるかが今後の焦点になりそうだ。

ビッグテックが軒並み自社設計に舵を切る理由

この収益構造を裏付けるように、世界の巨大テック企業は次々と半導体の自社設計へ舵を切っている。Appleはスマホ用のAシリーズ、PC用のMシリーズを完全自社設計し、Googleは検索やAIの計算に特化した「TPU」をデータセンターに配備、AmazonはクラウドAWS向けに「Graviton」や「Trainium」を、Microsoftは「Maia」「Cobalt」を、Metaはレコメンドエンジン向けに「MTIA」を、それぞれ独自開発している。自社のソフトウェアやサービスに最適化したハードウェアを持つことこそが、現代の産業における最大の付加価値の源泉になっているというのが私の見立てだ。

半導体不足の余波は、私たちが普段使っているガジェットの値段にも直結している。メモリー不足による値上げの背景を整理した記事も合わせて読むと、設計と供給網のつながりが見えてくる。

Apple製品が世界同時値上げした本当の理由:AIがメモリーを奪い合う「RAMageddon」と暮らしへの影響

米国研修が定員割れした本当の理由

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これほど価値の高い研修プログラムが、なぜ募集に苦戦しているのか。私は単なる「英語力の壁」では説明がつかないと感じ、構造的な要因を整理してみた。

  • 企業側の硬直的な人事制度:若手技術者が半年〜1年半も社外プロジェクトに専念することを「キャリアの逸脱」と捉える文化がある
  • 待遇のギャップと転職リスク:帰国後に相応の報酬を用意できなければ、外資系への転職リスクが高まると企業側が警戒している
  • 設計部署そのものの消滅:過去のリストラでアーキテクチャを自社設計する専門部署自体を縮小・廃止した企業が多く、送り出すべき候補者が社内にいない

私は正直、「育てても逃げられるかもしれないから育てない」という発想そのものが、人材流出の悪循環を強めているのではないかと感じた。

海外企業の人材育成投資はケタが違う

比較のために海外の育成制度も調べてみたところ、投資の規模感がまるで違うことが分かった。TSMCは新入社員に先輩がつく「Buddy制度」や6〜9カ月の技術研修プログラムを整備し、熊本工場でも高い基本給と手厚い住宅サポートで地域の人材を吸収している。Intelや韓国Samsungは社内に企業内大学に相当する機関を持ち、プロセス技術からアーキテクチャ設計まで博士号レベルの専門教育を継続的に実施する。NVIDIAやGoogle、Appleに至っては大学の研究室への資金提供やインターンシップを通じて、若手人材をグローバルに青田買いしているという。日本の一企業単位の研修プログラムとは、投資の規模も継続性もかなりの開きがあると感じた。

チップレット技術の台頭により、日本が強みを持つ後工程の材料・パッケージング分野の重要性はむしろ増している。設計と製造をつなぐ部品供給網の話は、こちらの記事の構造とも重なる部分がある。

iPhone 折りたたみはなぜ2026年9月?構造を整理

半導体の種類と工程を仕組みから理解する

回路図とチップの模型が並ぶ研究机のイメージ

設計人材不足の話を理解するには、半導体そのものの仕組みを押さえておく必要がある。

CPU・GPU・NPUの役割分担

半導体の製造工程は、設計(図面を描く)→製造(ウェハーに焼き付ける)→前工程・後工程(切り出して組み立てる)という分業体制で成り立っている。チップの種類にも役割の違いがあり、CPUは複雑な処理を順番にこなす司令塔、GPUは大量の単純計算を並列処理する担当、NPUはAI処理だけを低消費電力でこなす専門担当として使い分けられている。

生成AIの普及によって、この専用設計の重要性はさらに高まっている。GPUは元来グラフィックス処理用に作られたため汎用機能を抱え消費電力が大きく、特定のAIアルゴリズムだけに最適化したASIC(特定用途向け集積回路)の需要が急速に伸びているのが、AI時代の半導体設計の現在地だ。

海外エンジニアコミュニティの見方は割れている

海外の技術者コミュニティでは、日本の半導体復権に対する評価が割れている。「硬直的な企業文化」「技術者への報酬が低すぎる」といった構造的欠陥を指摘する厳しい声がある一方で、TSMC熊本進出やRapidus設立を地政学的リスクを背景とした産業の再構築と高く評価し、「人材のギャップが巨大であるため、キャリアを築くには良いタイミングだ」と前向きに捉える議論も増えているという。

地方発の人材育成も広がっている

人材育成は東京大学だけの取り組みではない。熊本県ではTSMC第2工場(JASM)の進出を受け、高校生を対象にした研修や、産官学が連携するコンソーシアムが県内で立ち上がっている。九州をはじめ全国では6つの地域コンソーシアムが動いており、設備投資だけでなく、数年単位で現場を支えるプロセス技術者やAI人材を継続的に輩出する仕組みづくりが課題の中心になりつつあるという。地方から人材の裾野を広げる動きが、200人育成という国策目標を支える土台になっていくはずだ。

TSMC熊本と東京大学の実践教育

人材育成の裾野を広げる動きとして興味深いのは、TSMC熊本工場(JASM)と東京大学が共同で設立した「TSMC東大ラボ」だ。学生が教育用シャトルを利用して実際に先端チップを製造する、極めて実践的な教育エコシステムが構築されつつあるという。東大d.labが展開する「半導体教育プログラム(SPIRIT)」は、電気系以外の学生にも門戸を開いており、受講者の3分の1が専門外の学生だという調査もある。裾野を広げる取り組みが、5年で200人という目標達成の土台になっていくのだろう。

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よくある質問

半導体設計人材不足を示す空席の並ぶオフィスのイメージ

Q. なぜ日本の半導体設計人材はここまで不足しているのか?

垂直統合型のものづくりに長く依存し、水平分業モデルへの転換に乗り遅れたことに加え、2000年代の事業再編で設計を担う専門部署そのものが縮小してしまったことが背景にあります。

Q. LSTCとはどのような組織か?

技術研究組合最先端半導体技術センターの略称で、経済産業省の主導のもとNEDOの資金支援を受け、次世代半導体の研究開発と人材育成を担う組織です。

Q. Tenstorrentとはどんな会社か?

RISC-Vというオープンソースの命令セットアーキテクチャをベースにAI半導体を設計する米国のスタートアップで、Rapidusにエッジ向け2ナノ半導体IPの製造を委託しています。

Q. ジム・ケラー氏はなぜ「伝説」と呼ばれるのか?

Apple・AMD・Teslaといった企業の歴史的なチップアーキテクチャを成功に導いてきた実績があり、業界内で高く評価されている技術者だからです。

Q. 米国研修プログラムが定員割れした背景は?

企業側の硬直的な人事制度、帰国後の待遇ギャップによる転職リスクへの懸念、過去のリストラによる設計部署の消滅が複合的な要因とされています。

Q. なぜ設計を持つ企業の方が儲かるのか?

設計側は人間の知恵が原価の大部分を占めるため、製造を外部委託しながら高い粗利率を維持できます。NVIDIAの粗利率が約74.9%に達しているのはその一例です。

Q. RISC-Vはなぜ注目されているのか?

ライセンス料がかからず、特定のAI演算に特化したカスタム命令を追加しやすいため、エッジAIやIoT分野でシェアを伸ばしています。

Q. チップレット技術は日本にどう関係するのか?

回路を複数の小さなチップに分けて組み合わせる技術で、味の素のABFフィルムやイビデンの基板など、日本が強みを持つ後工程材料の重要性を高めています。

Q. 半導体の設計と製造の違いは?

設計はチップの機能を定義する図面を描く工程、製造はその図面をもとにウェハー上に回路を構築する工程で、担う企業も技術要件も大きく異なります。

Q. AI時代になぜ専用設計(ASIC)が重要になるのか?

汎用的なGPUは不要な機能を抱え消費電力が大きいため、特定のAI処理だけに最適化したASICの方が計算効率と省電力性で優位に立てるからです。

参考・出典

  • LSTC技術研究組合最先端半導体技術センター「NEDO『ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/人材育成/最先端デジタルSoC設計人材育成』の採択について」
    https://www.lstc.jp/news/resouce/nedo-%E3%80%8C%E3%83%9D%E3%82%B9%E3%83%88%EF%BC%95g%E6%83%85%E5%A0%B1%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0%E5%9F%BA%E7%9B%A4%E5%BC%B7%E5%8C%96%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%96%8B%E7%99%BA/
  • 経済産業省 METI Journal ONLINE「我が国の半導体関連産業の人材動向」
    https://journal.meti.go.jp/wp-content/uploads/2024/03/semiconductors_and_digital99.pdf
  • Harvard Technology Review「The Return of Japan’s Semiconductor Industry: Rapidus and the Pivot Towards an Ecosystem of Innovation」
  • GIGAZINE「AppleやAMDを渡り歩いた天才エンジニアのジム・ケラー氏がRISC-Vの未来やオープンソースへの熱意について語るインタビュー動画が公開」

※本記事の情報は執筆時点のものです。内容は予告なく変更されることがあります。産業動向・年収水準に関する記載は目安であり、個別の判断は専門家にご相談ください。

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